朝倉裁判長の今後の人事は 最高裁の真価を見極める判断材料
東京電力の原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁の朝倉佳秀裁判長は、勝俣恒久元会長ら4人に対し「津波対策を怠り、会社に巨額の損害を与えた」として、連帯して13兆3210億円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。
最高裁の顔色を伺う「ヒラメ裁判官」が多い中で、政府や大企業におもねることのない画期的な判決です。
裁判官は、ある段階までは横並びに昇進するので、人事にこだわりのない比較的若い裁判官や、最高裁の縛りから逃れられる退官間際の裁判官が国民に寄り添った良い判決を書くことは定説となっていますが、朝倉裁判長は、そのような条件にはまったく当てはまらない、最高裁事務総局の要職を歴任してきた筋金入りのエリート裁判官ということですから驚きます。
今回の株主代表訴訟は2012年3月に提訴され、朝倉裁判長は4人目の担当裁判長でした。被告の本人尋問や専門家の証人尋問を行ったほか、21年10月には「現地進行協議」を実施しています。原発事故をめぐる関連訴訟で、裁判官として初めて福島第一原発の構内まで視察したということですので、それまでの裁判官とは本気度が違います。
「体制寄り」の判決を出しやすいと見られがちのエリート裁判官が今回のような画期的な判決を言い渡したことから、今後の人事などへの影響が危惧されます。
今回の判決に関連して、戦前から引きずる最高裁の前近代性、裁判官の人事を盾に判決をコントロールする最高裁の特異性を理解するには格好の記事を見つけました。
弁護士ドットコムの記事で、ライターの山口栄二氏が、幹部級裁判官の人事動向に詳しい、明治大学の西川伸一教授に聞いた内容です。
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史上最高「13兆円」賠償命じたエリート裁判官、人事への影響は? 東電株主代表訴訟
――東電の株主代表訴訟で、旧経営陣4人に13兆円を支払うよう命じた東京地裁判決をどのように受け止めましたか。
「びっくりしました。画期的かつすごい内容の判決で、このような判決が東京地裁で言い渡されたことにやや興奮さえ覚えました。今後の同様の訴訟において参照すべき判決になることは間違いありません
特に、国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測『長期評価』の信頼性については、旧経営陣の刑事責任が問われた裁判の一審の東京地裁でも否定されていただけに、東京地裁だからどうなるだろうかと思っていたところ、信頼性を認めたので、こういうこともあるんだと思いました」
そのほか、長くなるのでポイントだけまとめました。
●事務総局のポストを経験したこは「高裁長官」が確実視されるエリート
朝倉裁判長のように、事務総局の人事局給与課長を経て東京地裁部総括に就いた過去の裁判官は、『無難』に勤務していれば、ゆくゆくは高裁長官にはほぼまちがいなくなれるポストです。
●なぜ、現場より事務総局がエリートコース?
戦前の流れを汲んで、現場で裁判をやっている裁判官より、司法行政の実権を握る事務総局の方が偉いんだという意識、文化が引き継がれてしまいました。
裁判官会議は形骸化して、事務総局側の説明を聞いて、それを追認するスタンプ機関に成り下がってしまいました。その結果、事務総局が司法行政の実権を握ることになりました。
事務総局の勤務を経た裁判官は、一般的には、体制寄りというか、行政寄りの判断をしがちとみられているようです。支配する側の立場に立って考える体質というか、上から目線的な考え方が身についてしまい、現場に戻っても急に変われないということもあるかもしれません。
●人事への影響はあるか?
かつて、藤山雅行さんという事務総局の複数のポストを歴任したエリート裁判官がいました。
ところが、東京地裁民事3部の裁判長の時に、小田急線の高架化事業をめぐる『小田急高架化訴訟』で、建設大臣の都市計画事業認可を取り消す国側敗訴の判決をしたため、『国破れて山河あり』の故事・成語をもじって『国敗れて3部あり』と言われるほどの有名な判事になりました。
その後、藤山さんは、徐々に中央のポストから外されていき、地家裁支部長、家裁所長などを経て、最後は、東京、大阪以外の高裁部総括判事で退官になりました。
露骨な降格人事ではなく、徐々に外れていくというところがミソです。露骨な人事をすると批判されますから。そうした過去の例などもみると、朝倉さんも今後は、本来なら歩んでいたであろう輝かしい道のりではないかもしれませんね。
――事務総局の要職を歴任した朝倉裁判長が今回のような画期的な判断をしたのは、なぜでしょうか。
彼の経歴から理由を導き出すのは難しいと思います。むしろ、彼のキャラクターが強く影響しているのではないでしょうか。判決言い渡しの時に、主文を二度繰り返したり、『7カ月かけて書いた判決です』とか『最後までしっかり聞いてください』などと言ったりしたということから推測すると、判決文に込めた自身の考え方を表現したいという熱意を強く持っている人物のようにみえます。
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朝倉裁判長が、今後、人事でどのような処遇を受けることになるのか、国民は注目していかなければなりません。
今後も、これまでのような輝かしいエリートコースを突き進んでいくのか、あるいは下降線をたどるような人事を歩んでいくのか、それは、つまり最高裁が国民から信頼される権威ある組織であるのか、あるいは国民から蔑(さげす)まされるような民主国家としての体裁を整えるだけの組織であるのか、最高裁の真価を見極める判断材料になることは間違いありません。


最高裁の顔色を伺う「ヒラメ裁判官」が多い中で、政府や大企業におもねることのない画期的な判決です。
裁判官は、ある段階までは横並びに昇進するので、人事にこだわりのない比較的若い裁判官や、最高裁の縛りから逃れられる退官間際の裁判官が国民に寄り添った良い判決を書くことは定説となっていますが、朝倉裁判長は、そのような条件にはまったく当てはまらない、最高裁事務総局の要職を歴任してきた筋金入りのエリート裁判官ということですから驚きます。
今回の株主代表訴訟は2012年3月に提訴され、朝倉裁判長は4人目の担当裁判長でした。被告の本人尋問や専門家の証人尋問を行ったほか、21年10月には「現地進行協議」を実施しています。原発事故をめぐる関連訴訟で、裁判官として初めて福島第一原発の構内まで視察したということですので、それまでの裁判官とは本気度が違います。
「体制寄り」の判決を出しやすいと見られがちのエリート裁判官が今回のような画期的な判決を言い渡したことから、今後の人事などへの影響が危惧されます。
今回の判決に関連して、戦前から引きずる最高裁の前近代性、裁判官の人事を盾に判決をコントロールする最高裁の特異性を理解するには格好の記事を見つけました。
弁護士ドットコムの記事で、ライターの山口栄二氏が、幹部級裁判官の人事動向に詳しい、明治大学の西川伸一教授に聞いた内容です。
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史上最高「13兆円」賠償命じたエリート裁判官、人事への影響は? 東電株主代表訴訟
――東電の株主代表訴訟で、旧経営陣4人に13兆円を支払うよう命じた東京地裁判決をどのように受け止めましたか。
「びっくりしました。画期的かつすごい内容の判決で、このような判決が東京地裁で言い渡されたことにやや興奮さえ覚えました。今後の同様の訴訟において参照すべき判決になることは間違いありません
特に、国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測『長期評価』の信頼性については、旧経営陣の刑事責任が問われた裁判の一審の東京地裁でも否定されていただけに、東京地裁だからどうなるだろうかと思っていたところ、信頼性を認めたので、こういうこともあるんだと思いました」
そのほか、長くなるのでポイントだけまとめました。
●事務総局のポストを経験したこは「高裁長官」が確実視されるエリート
朝倉裁判長のように、事務総局の人事局給与課長を経て東京地裁部総括に就いた過去の裁判官は、『無難』に勤務していれば、ゆくゆくは高裁長官にはほぼまちがいなくなれるポストです。
●なぜ、現場より事務総局がエリートコース?
戦前の流れを汲んで、現場で裁判をやっている裁判官より、司法行政の実権を握る事務総局の方が偉いんだという意識、文化が引き継がれてしまいました。
裁判官会議は形骸化して、事務総局側の説明を聞いて、それを追認するスタンプ機関に成り下がってしまいました。その結果、事務総局が司法行政の実権を握ることになりました。
事務総局の勤務を経た裁判官は、一般的には、体制寄りというか、行政寄りの判断をしがちとみられているようです。支配する側の立場に立って考える体質というか、上から目線的な考え方が身についてしまい、現場に戻っても急に変われないということもあるかもしれません。
●人事への影響はあるか?
かつて、藤山雅行さんという事務総局の複数のポストを歴任したエリート裁判官がいました。
ところが、東京地裁民事3部の裁判長の時に、小田急線の高架化事業をめぐる『小田急高架化訴訟』で、建設大臣の都市計画事業認可を取り消す国側敗訴の判決をしたため、『国破れて山河あり』の故事・成語をもじって『国敗れて3部あり』と言われるほどの有名な判事になりました。
その後、藤山さんは、徐々に中央のポストから外されていき、地家裁支部長、家裁所長などを経て、最後は、東京、大阪以外の高裁部総括判事で退官になりました。
露骨な降格人事ではなく、徐々に外れていくというところがミソです。露骨な人事をすると批判されますから。そうした過去の例などもみると、朝倉さんも今後は、本来なら歩んでいたであろう輝かしい道のりではないかもしれませんね。
――事務総局の要職を歴任した朝倉裁判長が今回のような画期的な判断をしたのは、なぜでしょうか。
彼の経歴から理由を導き出すのは難しいと思います。むしろ、彼のキャラクターが強く影響しているのではないでしょうか。判決言い渡しの時に、主文を二度繰り返したり、『7カ月かけて書いた判決です』とか『最後までしっかり聞いてください』などと言ったりしたということから推測すると、判決文に込めた自身の考え方を表現したいという熱意を強く持っている人物のようにみえます。
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朝倉裁判長が、今後、人事でどのような処遇を受けることになるのか、国民は注目していかなければなりません。
今後も、これまでのような輝かしいエリートコースを突き進んでいくのか、あるいは下降線をたどるような人事を歩んでいくのか、それは、つまり最高裁が国民から信頼される権威ある組織であるのか、あるいは国民から蔑(さげす)まされるような民主国家としての体裁を整えるだけの組織であるのか、最高裁の真価を見極める判断材料になることは間違いありません。


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