ひき逃げ事件が なぜ不起訴処分になるの?
一般常識では考えられないおかしなことがなぜ行われているのか、裁判所や捜査機関の内情が、前回紹介した「裁判のカラクリ」という本から知ることができます。
今回は、ハンドルネームJinさんからいただいた、不起訴処分にされたひき逃げ交通事故を例に、その背景についてお伝えします。
平成25年11月11日、九州地方のある町で起こった事故です。自転車に乗っていた男性(被害者)が、軽トラックに(女性が運転、同乗者は高校生の息子)に追突され、転倒して怪我を負ったのを近くで目撃したJinさんは、すぐに消防署に通報したそうですが、その加害者の軽トラックはその場から走り去り、900メートル程離れた自宅に車を置いた後、およそ15分後に加害者は夫とともに歩いてその現場に現れたということです。(それについては救急車の3名の消防署員が目撃者しています。)
道路交通法 第七十二条 には「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」と規定されています。
これによれば、明らかにひき逃げ事故であると思われますが、検察は、自動車運転過失傷害事件で簡易裁判所へ加害者を起訴(略式命令請求)→ 簡易裁判所が加害者に対し30万円の罰金に処する略式命令→自動車運転過失傷害事件確定 ということで、ひき逃げ事件については不起訴処分にしたということです。
被害者は納得できなかったので、検察審査会に申し立てましたが不起訴相当、同時に福岡高検と検事総長へ申し立てたそうですが、福岡高検から不起訴処分にされたということです。
加害者の父親は地域の元世話役で、不起訴確定前に、町内での集会の際、知人へ「(被害者)がどう足掻こうと娘のひき逃げは絶対に起訴されない。」と豪語していたというから、何か秘策があったのでしょうか?
不審に思ったJinさんが、消防署に確認したところ、Jinさんの通報(17:11)の一分前に、別の目撃者の男性から消防署に通報(17:10)があったということです。警察の『電話録取書』では、加害者の息子と思われる男性が、17:10に消防署へ通報した事になっていますが、加害者の弁護士から被害者に送られて来た通知によると、加害者本人が17:10に警察へ事故発生の通報をした事になっていて、事実関係に整合性がありません。
ちなみに救急車が出動したのは、17:12です。
これと類似する事件が、「裁判のカラクリ」に掲載されている、1997年、東京世田谷の自宅近くの横断歩道を渡っている最中に大型ダンプカーにひかれて死亡した片山隼君の事故です。
ひき逃げ事故であったにもかかわらず、東京地検は、事故から20日後、運転手を業務上過失致死容疑でも、ひき逃げ容疑でも嫌疑不十分の不起訴処分にして釈放してしまいました。
この処分の納得できなかった片山隼君の両親は、真相究明のために署名運動を始め、新聞やテレビのワイドショーでも大きく取り上げられるようになったため、1998年7月、東京高検が東京地検に異例の再捜査を命じました。
再捜査開始からまもなく、対向車線で事故の一部始終を目撃していた男性ドライバーから新証言が得られ、運転手が業務上過失致死罪で起訴され、有罪判決を受けたのはいうまでもありません。
ところが、新証言をしたという男性ドライバーは、片山隼君の事故を最初に110番通報した人で、氏名や自宅の電話番号を伝えたにもかかわらず警察からは何の連絡もなく、新聞で不起訴処分を知って驚いていたといいます。
そのような杜撰な自己処理の根拠について、「裁判のカラクリ」には次のように記されています。

警察や検察は形ばかりの捜査でお茶を濁し、さっさと不起訴処分にしたのである。
交通事故を警察や検察が真面目に捜査しないのは、いまに始まったことではない。被害者は怪我して入院したり死亡しているため、実況見分調書は、加害者と警察官だけでつくっている。第三者の目撃者を立ち会わせることがないから、加害者の言い分だけが通って不起訴処分が乱発されるようになった。
今回の隼君ひき逃げ事件で東京高検が再捜査を命じたのは、異例中の異例だった。マスコミや世論を無視できず、いやいやながら再捜査ー起訴を行ったというのが真相だ。
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さらに、交通事故の業務上過失致死・致傷の起訴率が、1985年を境に減少傾向にあるということです。
それは、東京高検の伊藤栄樹検事長が、「軽微な事故は原則として起訴しない」という方針を高検管内で打ち出したからだといいます。のちに伊藤検事長が検事総長へ就任するや、その方針は全国に拡大され、その結果、事故捜査がずさんなものとなって起訴率を低下させたということです。
Jinさんが目撃したひき逃げ事故が不起訴処分になった背景には、このような事情があると考えられます。
それにしても、杜撰な捜査でデタラメに判断されたのでは、被害者はたまったものではありません。
事故が起こりそうもないところで、無駄な取り締まりをしている暇そうな警察官をよく見かけますが、必要なところにこそ人材を活用すべきだということは言うまでもありません。



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