原発事故訴訟の見通し 2
国家賠償訴訟の被告国の代表者は法務大臣であり、その代理人である法務局が、本来の証拠と捏造証拠を差し替え、それに基づいて陳述が行われたということは、国がまともな裁判を行う意思などないということです。
国家賠償訴訟の統計がとられていない(とられているかもしれないが公開されていない)こと、一部公開されている資料によれば、国の完全勝訴率がおよそ98%であることを合わせて考えれば、国家賠償制度そのものがほとんど機能していないといえます。
原発事故に対する国家賠償請求が認められないと考えられる二つ目の理由は、国に都合よくできている法律があるからです。
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これでいいか?原発事故で国の責任を追及できない仕組みになっている [原子力災害]
上記のサイトで詳しく書かれていることなのですが、要点のみ紹介したいと思います。
東京電力の事前の津波対策や事故後の対応の不手際、国の事故対応、政府の津波対策の甘さ、事故後の避難指示を巡る混乱や情報公開などに問題があったことは、これまでの政府の事故調査・検証委員会等で報告されています。
このように国の事前の政策に誤りがあったり、事故後の対応が不適切、不十分であったりした場合、通常であれば、被害者は国に対して国家賠償法(第1条)に基づいて損害賠償を請求できることになっていますが、原発事故の場合には、そのようにはならないということです。
原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)には「責任集中の原則」が採用されていて、同法4条1項は、原発事故の損害賠償について「原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない」と規定し、原子力事業者である東京電力のみが損害賠償責任を負い、他の者は一切責任を負わないこととしているので、当然、国家賠償法に基づく国や地方公共団体への損害賠償請求もできない仕組みになっているというのです
原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)
第四条 前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。
ところが、憲法第17条には、次のような規定があります。
憲法 第17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
ということは、前述の原賠法第4条は、憲法に違反していることになります。
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安保法案が憲法違反であることはほとんどの憲法学者も認めるところですが、これ以前にも、すでに憲法違反の法律が制定されていたということになります。
原発事故訴訟の判決では、裁判官が原賠法第4条を根拠に、国に対する損害賠償請求を退ける可能性があると考えられるので、それを防ぐために、原告は、憲法第98条を根拠に原賠法第4条が無効であることを主張する必要があります。
憲法 第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
その場合、裁判所の判断はどうなるのか、予想してみたいと思います。
これまでの私の経験から、原賠法第4条が憲法に違反していて無効であることを原告が主張したとしても、そのことは判決書に盛り込まれる可能性はかなり低いと考えられます。国にとって都合の悪い主張は裁判官が無視し、原告にとっては重要な証拠や主張であっても、判決書に盛り込まれることはありません。しかも、重要な法律判断については、裁判所が判断を避ける傾向にあります。多くの時間と労力、費用をかけて裁判を提起したとしても、それ相応の価値のある判決が得られることは、ほとんどありません。
しかも、国家賠償訴訟は民事裁判に分類されますので、刑事裁判のように、原告、被告、それぞれの主張は、裁判で読み上げられることはありません。書面だけのやり取りで、原賠法第4条が憲法違反であるという主張がされていることすら、裁判を傍聴している人たちにも知られないまま、闇に葬り去られることになりかねません。




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