利害が一致する裁判所と鑑定人 ~泥縄式知識の限界~
自宅建物(木造二階建て)からわずか数メートルのところで行われた公共事業の河川工事で、自宅の壁に亀裂が入るなどの被害を受けたコードネーム村雨さんが、行政と工事業者を訴えた裁判です。
この事件の経緯を簡単に示すと、次のようになります。
① 河川工事による被害の発生を予見した村雨さんは、そのことを○○市に訴えると、○○市は、工事前・工事後の家屋調査を業者Aに依頼した。
② 工事終了後、村雨さんは、○○市から、業者Aの作成した家屋事前事後報告書を受け取るが、被害が発生しているにもかかわらず、被害がないという所見であった。
③ 村雨さんは、○○市に家屋事前事後報告書の説明を求めるが、埒が明かないので、裁判に訴えた。
④ 一審は、鑑定人Bによる鑑定書の被害箇所の賠償を命じた判決であったが、明確な被害箇所を否定する所見が多数あったため、村雨さんは控訴した。
⑤ ○○市は、控訴理由書の中で、画像鑑定の必要性を主張して認められる。
⑥ 二審では、○○市依頼の画像鑑定人Cが、業者Aの写真の差異は異なるカメラを使用した結果であるとして、鑑定人Bの鑑定書の被害発生部分を否定した所見を書き、全面敗訴となった。
⑦ 現在、上告中。
これらの裁判を、村雨さんは、「被害が発生しているにも関わらず、すべてが幻、夢であるかのような、裁判マジックではないでしょうか。」と表現しています。
村雨さんは、裁判を弁護士に依頼して行ったということですが、準備書面等は、村雨さんが草案を書いて、弁護士はそれを転記して、法律解釈と用語等を付け加えて作成していたということです。
また、裁判所が選任した鑑定人Bについては、弁護士が村雨さんに相談することなく裁判所に鑑定を申請し、村雨さんは事後承諾だったということです。
村雨さんは、鑑定書の矛盾点、不正個所を、証拠を示して指摘しており、それを準備書面の草案に盛り込んだということですが、弁護士は、鑑定の問題点を指摘した箇所を全て削除して書面を作成し、結局は鑑定人の間違った評価が独り歩きをしてしまい、軸足が曲がったままでの論争だったと、ふり返っています。
また、鑑定書の偽装写真は、弁護士に提出を依頼をしたにもかかわらず、最後まで提出しなかったということです。
村雨さんは、これについて、次のように述べています。
「裁判所の選任した鑑定人の作成した鑑定書は絶対的な不動のものであり、鑑定結果に対しては従う、異議を申したてない、批判をしない、させないとの、裁判官、弁護士間の暗黙の了解があるのではないのかと思いました。」
この一連の裁判の経緯を拝見すると、行政と業者、裁判所、さらには鑑定人までもが一体となって原告敗訴に誘導しており、行政と被告代理人、裁判所が一体となって原告敗訴に誘導した私の裁判との類似性を強く感じました。
まさに、行政が相手の裁判の特徴ともいえます。
一方、この事件には、裁判所も弁護士も、鑑定人に頼らざるを得ない特殊な事情があると考えています。
本来なら、「公共事業に係る 工事の施行に起因する地盤変動により生じた建物等の損害等に係る事務処理要領」「工損調査等標準仕様書」に則り、工事前と後とを詳細に計測すれば不具合箇所の有無が確認できるそうです。写真撮影は、調査実施あるいは調査状況の確認手段に過ぎないということです。
裁判資料の一部を拝見させていただきましたが、工事で使用した重機の種類や性能、工事で生じる振動加速度レベルの測定数値、精密な写真撮影に関する知識など、裁判での主張を組み立てたり、結論づける際には、ある程度の知識が必要であると見受けられます。
村雨さんは優秀な方で、それらについて調べ、十分な知識を得た上で、裁判での主張を組み立てています。
弁護士や裁判官は、法律については専門家でも、それ以外の分野については素人です。ほかにも多くの事件を抱えている都合上、泥縄式で村雨さんの裁判に関する知識を得ようとしたところで限界があります。
弁護士も裁判所も、専門家による鑑定に頼るほうが安易で得策だと考えたのではないでしょうか。
ところが、頼りの鑑定書は、画像の悪い(意図的に不鮮明に撮影された)写真を比較するだけの、実に原始的な方法だったのです。しかも、その杜撰な鑑定に、140万円という法外な鑑定費用を請求しています。
高裁は鑑定書が信頼に値しないことを認識しておきながら、結論ありきの判決を維持するために、鑑定書には一切触れずに、客観的証拠を無視して、○○市、○○建設の捏造した証拠、虚偽の証言を証拠として採用して、論理的に矛盾した判決文で結論付けたと、村雨さんはおっしゃっています。

訴訟になる事件は、裁判官のみで判断できる事件と、高度な専門性を要するため鑑定人に頼らざるを得ない事件に分類されると思いますが、裁判所が、あらゆる分野の事件を受け入れている以上、裁判官の知識・能力を補うための鑑定については、その費用を裁判所が負担するのが筋だと考えます。
次回は、鑑定費用に関する法律について考えてみたいと思います。



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