原発事故 前福島県知事の逮捕さえなければ・・・・
ですから、原発事故が起きたとき、真っ先に思ったことは、前知事が逮捕されることがなかったなら、これほど酷い原発事故には至らなかったのではないかということです。
原子力発電を巡っては、在任中、知事が全力を傾注していたことのひとつであり、この著書の中でも2章にわたって詳細に述べられています。
この記事を書くにあたり、もう一度、原発に関する章を読んでみると、今回の原発事故が、起こるべくして起こったということ、関係者が原発立地地域の県民の立場に立ってよく考えてくれたなら、これほど甚大な被害をもたらすことはなかったのではないかということが鮮明に読み取れます。
言い換えるなら、国策として推進してきた原子力政策のどこに問題があったのか、その責任はどこが取るべきなのかということが、明確に理解できます。
要点を簡潔にまとめてみます。
① 原発政策の実権は誰が握っているの?
国会議員さえタッチできない内閣の専権事項、つまり政府が決めることで、その意を受けた原子力委員会の力が大きい。原子力委員会の実態は、霞ヶ関ががっちり握っている。
② 前知事の原発事故に対する原体験
1986年のチェルノブイリ炉心融解事故の翌年、中曽根首相の東欧訪問に随行した際、訪問する先々で「これはチェルノブイリで汚染された肉ではない」という説明があり、原発事故の恐ろしさと、広範囲にわたる被害を痛感した。
③ 知事に就任して初めての原発事故
1989年 東京電力福島第2原発3号機で、原子炉の冷却水循環ポンプ内に部品が脱落。
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地元の自治体は、情報の伝達も後回しにされ、原発に対しての権限もなく、傍観しているだけだった。
この事故で得られた教訓
「国策である原子力発電の第一当事者であるべき国は、安全対策に何の主導権もとらない」という「完全無責任体制」である。事故が起きても、国にとっては、個別電力会社の安全管理の問題であり、電力会社の役員を呼びつけ、マスコミの前で陳謝させ、ありがたく指導するだけだ。「ひとつの事故から得た教訓を原発関係者が共有し今後の防止につなげよう」という、航空機事故調査のような「水平展開」がまったくない。「同じことで同じような事故が起き続ける仕組み」になっている。
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前知事は、「同じ目には二度と遭うまい」と考え、原子力発電や原子力行政についての勉強を始めた。
④ 高速増殖炉「もんじゅ」の事故とプルサーマル
原子力発電所から出る使用済み核燃料(燃料棒)の再処理をすることで、再び使用可能なウランとプルトニウムを取り出し、核燃料として再使用しようというのが核燃料サイクルの考え方だ。この再生燃料を「MOX燃料」といい、高速増殖炉で使用する方法と、プルサーマル用に加工し、通常の原子力発電所で使用する方法がある。
高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故を機に、原発が集中する福島、新潟、福井の知事が核燃料サイクルのあり方などについて、提言という形で国で文書を提言する。
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国は「円卓会議」を設置し、プルサーマル推進の原子力政策の決定システムを変更した。
「もんじゅ」の事故などで国は高速増殖炉計画を中断し、プルサーマル計画を強引に進めようとするが、度重なるMOX燃料のデータ捏造や核燃料税を巡って、福島県は、狡猾な国や東京電力とバトルを繰り広げる。
ところが、次の⑤の事件で、その様相が変わる。
⑤ 東電の検査データ捏造やトラブル隠しが発覚
2002年8月経産省原子力安全・保安院から「福島第一・第二原発で、原発の故障やひび割れなどの損傷を隠すため、長年にわたり点検記録をごまかしてきた」という恐るべき内容のFAX18枚が県に送られてきた。
しかも、、原子力安全・保安院は、2年前に告発を受けながら、それまで放置してきた。
「国と電力会社は同じ穴のムジナ」だ。前知事は、当事者の東電よりも、2年間も放置してきた国と原子力保安院に対しての怒りの方が大きく、「本丸は国だ。敵を間違えるな」と檄を飛ばした。
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東電トップは引責辞任し、原発の立地する4町の町長たちは、プルサーマル計画の凍結の立場を決め、県も、国と東電の責任の明確化と再発防止を求める決議を採択。
⑥ 東京電力のすべての原発が運転停止
⑤の2002年8月に発覚した東電の検査データ捏造、トラブル隠しの事態を受けて、原子力保安院は、全電力事業者に、検査記録の総点検を指示したところ、他の原発でも次々にトラブル隠しが発覚した。
2003年4月、検査や修理、点検のために、東京電力のすべての原発(福島10基、柏崎刈羽7基)が運転を停止する事態になった。
⑦ 原子力政策に反映されなかった福島県の意見
2005年6月、東京電力の県内に原発10基が、再び全基稼動することになり、7月に、原子力委員会は今後10年程度の国の原子力政策の基本方針をまとめた[原子力政策大網(案)」を発表したのに対し、福島県は、[原子力政策大網(案)に対する意見」として、政策決定過程、核燃料サイクル、安全確保の3つの観点から13項目の意見をまとめ、原子力委員会に提出した。
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「原子力政策大網」は、原子力委員会で了承され、閣議で国の原子力政策として決定されるが、福島県が提出した意見はまったく反映されなかった。
⑧ 福島県はプルサーマルを実施しないことを再確認
プルサーマル計画についの国からの働きかけに、青森、佐賀が屈し、同意する中、福島県はプルサーマルを実施しないことを再確認した。
前知事の考え
福島県の最高責任者として、県民を守るため、「事故情報を含む透明性の確保」と、[安全に直結する原子力政策に対する地方の権限確保」の二点について、国や関係者はよく考えてほしかった。
原発は国策であり、知事などの立地自治体の長には何の権限もないが、世論(県民の支持)をバックにすることができる。
日本の原子力行政の体質
経済産業省の中に、プルサーマルを推進する資源エネルギー庁と、安全を司る原子力安全・保安院が同居している。(泥棒と警察が一緒になっているような体質)
国民の意見は形式的に聞き、自分たちの決定した路線を強引に推進する。
核燃料サイクル計画については、安全性や経済性、核物質の管理、最終処分場などの問題の見通しが立たないまま、責任者の顔が見えず、誰も責任を取らない日本型社会の中で、強引に推し進められる。
以上が、前知事が原子力発電に対して行ってきた一連の流れですが、何かの事故が起こるたびに、原子力行政の体質的問題が明らかになって行く様子がうかがえます。
さらに、この著書の中では、地震に基づく過去の事故等についても言及しています。
2007年の新潟県中越地震では、想定されていた値の5倍の揺れにより、柏崎刈羽原子力発電所の運転中の7基の原発が自動停止し、炉心冷却装置のうち1台が故障、放射性物質を含んだ水がプールから漏れ出し、関連施設の火災などが発生した。
2008年には、中部電力浜岡原子力発電所が、耐震性の不足を理由に廃炉を検討していることが明らかにされた。

原発に対する国の管理・監督体制がほとんど機能していなかったことが、今回のような環境に大きなダメージを与える重大事故を引き起こしたと推測されます。




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