政治と司法

田中角栄氏の「暗黒裁判」

昨年3月の記事 「サンプロ出演の田中真紀子氏 司法の本質をズバリ!」 では、真紀子氏が、田中角栄氏のロッキード事件の裁判を批判したことについてお伝えしましたが、先週に引き続きお伝えしている小室直樹氏の  『田中角栄の遺言 (官僚栄えて国滅ぶ)』  の最終章「第六章 暗黒裁判だった角栄裁判(江戸時代のままの日本人の法意識こそ問題)」を読むと、角栄氏の事件の捜査・裁判が、いかに異常であったかが理解できます。

独自にそれぞれの項目に分けて、まとめてみました。

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1 この事件を一言でいうと
(ロッキード社の旅客機の受注をめぐって1976年2月に明るみに出た大規模な汚職事件で、日本やアメリカ、オランダ、ヨルダン、メキシコなど多くの国々の政財界を巻き込んだ。)
『田中角栄の遺言』で取り上げているのは、ロッキード社副社長のコーチャン氏が、田中角栄首相(当時)に賄賂を贈ったというものである。


2 奇妙奇天烈な事件の発端
1976年2月、隣の会計事務所に行くべきロッキード社の秘密文書の郵便物が、ロッキード社を目の仇とするチャーチ委員会(米国多国籍企業小委員会)に誤配され、チャーチ委員会によって、ロッキード事件は告発された。

 これ以降、日本の角栄氏の事件についてのみ、お伝えします。

3 「暗黒裁判」と言われる一つ目の理由が 『嘱託尋問』
ロッキード社のカネが日本国内に持ち込まれたという事実、それ以降の日本国内における金銭の授受についての物証の裏付けはなかった。
コーチャン氏の自白だけが唯一の根拠であったが、日本側で直接事情聴取できないため、三木内閣は、ロサンゼルス連邦地裁にコーチャン氏を召喚し、供述させて得られた証言の記録を日本に引き渡すよう要求した。
ロサンゼルス連邦地裁が出した条件は、どんなことを証言しても贈賄罪、偽証罪で起訴しないという刑事免責を保証するのなら、要求に応じるというものであった。
しかも、日本政府や検事だけの保証では当てにならないので、最高裁が刑事免責を保証するのならOKということであった。

日本にはこのような司法取引がないが、1976年7月24日、最高裁裁判官会議は、米側証人の刑事免責保証を決議した。


4 「人権蹂躙」の別件逮捕
1976年7月27日、角栄氏を逮捕。
容疑は、全日空のトライスター機種決定という五億円収賄容疑の逮捕ではなく、外為法違反という形式犯での別件逮捕であった。
別件逮捕の理由は、角栄氏逮捕の時点で、検察側に必要な証拠もなく、起訴の自信もなかったからである。


5 暗黒裁判」と言われる二つ目の理由が 「反対尋問(審問)の機会」なきままの有罪判決
裁判所での証言は正しくなされなければならず、証人は宣誓させられ、嘘をつけば偽証罪に問われる。
米英はじめデモクラシー諸国における偽証罪はきわめて重く、社会的制裁も厳しい。
だから、世の「嘘つき」も、証言だけは嘘をつかないよう心掛けるが、さらに重要なのが反対尋問である。
検察側の証人に対しては、弁護側が反対尋問をして嘘を暴くべく努める。反対尋問こそデモクラシー諸国における裁判の要諦である。
憲法第37条2項には、「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる・・・」とあり、これこそ、「デモクラシー憲法」の急所である。
田中角栄氏の裁判では、コーチャン氏に対する弁護側の反対尋問の要求を、東京地裁は、その必要なしと却下した。ただの一度も最重要証人に反対尋問する機会を与えられることなく、有罪判決がなされた。
角栄裁判では、デモクラシーの根本原則が真っ向から否定され、明白な人権蹂躙であった。


6 行政権力と司法権力の野合であるロッキード事件
検察が、前例にない方法によって角栄氏逮捕に踏み切り、強引に裁判を行ったということは、誰が推理しても、何か大きな闇の力が働いたとしか言いようがない。
その一つが、角栄氏を「金権問題」で引きずりおろしたものの、彼は依然として日本最強の政治家であり、なんとしても潰さなければならないというエスタブリッシュメント側(政権)の意向であろう。
それを裏書きするのが、上記の3の三木首相のすさまじい要求であろう。


7 引き延ばしにされた最高裁判決 
角栄氏の裁判は、一審、二審で有罪となり、最高裁は判決を引き延ばしにし、最終判決の前に、田中角栄氏は亡くなった。
最高裁は、有罪を確定させることだけはしなかった。だが、無罪にはしなかった。


以上が、角栄氏がかかわるロッキード事件の経緯と捜査、裁判の一連の流れですが、ここで最も重要なポイントは、次の二つです。

① 外国の裁判所に尋問を嘱託して、それを証拠として採用するなどということは、日本の刑事訴訟法では規定されていない。
② 憲法第37条に違反し、反対尋問されなかった証言そのものに効力はない。(これが「法の精神」)


 デモクラシー裁判のエッセンスは、適法な手続きである。この手続きにほんの少しでも欠点があれば、刑事裁判における被告は無罪である。
この大原則を無視した角栄裁判は、デモクラシーの死を意味している。


「刑事訴訟法の無視は“野蛮国”の証明」というサブタイトルのところには、次のように記されています。

角栄裁判は、憲法違反の物的証拠なき、違法で信頼がおけない自白しか証拠のない暗黒裁判である。この暗黒裁判で角栄氏は殺され、デモクラシーも殺された。

以上が、 『田中角栄の遺言 (官僚栄えて国滅ぶ)』 からの引用です。

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 日本は三権分立が機能しておらず、民主国家・法治国家とは言い難い状況にあるとことを実感していましたが、知れば知るほど、前近代的な野蛮で恐ろしい国であるという認識が強まります。

 次回は、引き続き 『田中角栄の遺言 (官僚栄えて国滅ぶ)』 から、英米等のデモクラシー諸国と日本の法意識の比較をお伝えする予定です。

      『田中角栄の遺言』の復刊


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2コメント

反対尋問権

>反対尋問されなかった
素朴な疑問ですが 検察側の人証も物証提出も 弁護人が不同意とすれば 法廷提出されないか 反対尋問権を有します 反対尋問を経なければ証拠能力はなく 判決の基礎にできない 刑訴法でもそうなっているかと。

当方の場合は検察は中身の無い証拠カードという標目だけを検察証拠として提出 弁護人はこの標目に証拠同意して反対尋問権を被告人に無断で放棄した これが我が再審事件となった起因です。
できればどのような情況で反対尋問権が行使できなかったのか 知りたいものです

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Re: 反対尋問権

反対尋問がされなかったこと自体が、「暗黒裁判」たる所以ですから。
それは、最高裁に問い合わせるしかないでしょうね。


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