国家賠償訴訟は民主国家としての体裁を保つためのアイテム!
何か知りたいことや調べたいことがあるとき、大概のことは、インターネットを利用すれば、必要な情報を得ることができます。個人情報や機密情報が含まれていない限り、お役所関係の情報も例外ではありません。
そのような中、いつ調べても、期待するような情報が得られないものがあります。
それは、国家賠償訴訟の提起件数と、原告(または国)の勝訴率です。
私が国家賠償訴訟を提起する以前の平成17年ごろから、たまに、気が向いたときに調べてみてはいるのですが、いつ調べても、1995年(平成7年)から1999年(平成11年)までの5年間の古い資料しか見当たりません。
ところが、最近、国家賠償訴訟に関する新たな資料を見つけました。資料としては新しいのですが、わずか1年半という短期間のものです。
http://plaza.rakuten.co.jp/heitei48kagawa/diary/200812210009/
参議院議員の近藤正道氏が、平成20年10月に、当時の参議院議長の江田五月氏に提出した「国家賠償法第一条二項に基づく求償権行使事例に関する質問主意書」と、それに対する回答です。
この質問主意書が提出された背景は次のようなものです。
情報公開を担当していた自衛官が、請求者の個人情報をリスト化し、防衛庁内で閲覧していたことが発覚し、これを受け、リストに記載されていた作家と弁護士が、2002年5月、国家賠償訴訟を起こした。
両訴訟においては、いずれも国側敗訴を認める判決が確定し、20年8月には、これを受けて防衛省が国家賠償法第一条第二項に基づき、賠償額を当該公務員個人に求償し、当該公務員がこれを支払った。
この事案については、組織としての防衛庁の関与が強く疑われたことから、個人に対する求償が妥当であったのかどうかを確認するために提出されたものだ。
提出の背景はさておき、驚くべきことは、その中身です。
分かりやすく、要点のみQ&Aの形にまとめてみました。(漢数字は、読みやすく算用数字に改めました。)
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国家賠償法第一条二項に基づく求償権行使事例に関する質問主意書
① Q 過去10年間における、国家賠償法第一条の損害賠償請求訴訟が提起された件数を、各年別、各省庁別に明らかにされたい。
A 訴訟の全件数については、調査に膨大な作業を要するため、お答えすることは困難であるが、法務省において、平成19年1月から平成20年6月までの間について取り急ぎ調べたところ、平成19年は750件、平成20年1月から6月までの間は600件である。
② Q ①のうち、国側敗訴判決が確定した件数および賠償額の合計を、各事案の概要(認定された賠償額を含む)と併せて明らかにされたい。
A 国の敗訴(一部敗訴を含む。)が確定した訴訟の全件数及びその賠償額の合計等については、調査に膨大な作業を要するため、お答えすることは困難であるが、法務省において、平成19年1月から平成20年6月までの間について取り急ぎ調べたところ、平成19年に確定した右件数は18件、認容された賠償額の元本の合計額は一億3606万7518円であり、平成20年1月から6月までの間に確定した右件数は11件、認容された賠償額の元本の合計額は1561万5933円であった。各事案の概要は、以下のりである(括弧内は認容された賠償額である。)。
(1) 平成19年
1 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(2万円)
2 検察事務官が被害者の被害感情等について虚偽の電話聴取書を作成したとするもの(5万円)
3 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(3万円)
4 刑務所職員が弁護士の接見を妨害したとするもの(15万円)
5 旧国立大学総長が情報公開請求について違法な不開示決定等をしたとするもの(40万円)
6 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(20万円)
7 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(44万円)
8 拘置所職員が弁護士の接見を違法に拒否したとするもの(150万円)
9 刑務所職員の受刑者に対する医療行為に過誤があったとするもの(70万円)
10 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(3千円)
11 刑務所職員が受刑者の所持品を紛失したとするもの(55万円)
12 検察官の公訴提起が違法であったとするもの(196万1039円)
13 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(4万円)
14 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(4万円)
15 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(5万円)
16 国税局職員がした差押え等が違法であったとするもの(31万3479円)
17 旧日本海軍の爆雷の爆発により被害があったとするもの(1億3000万円)
18 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(1万円)
(2)平成20年1月から6月まで
1 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(4万円)
2 自動車検査登録事務所の職員に移転登録手続上の過誤があったとするもの(38万9648円)
3 税務署職員が違法な事務処理をしたとするもの(600万円)
4 検察官の公訴提起が違法であったとするもの(100万円)
5 検察官が接見交通権を違法に侵害したとするもの(550万円)
6 社会保険事務所の公用車が自転車と衝突したとするもの(119万4369円)
7 地方整備局職員が入札に関して違法な指示をしたとするもの(55万円)
8 刑務所職員が受刑者に違法な処遇をしたとするもの(5万円)
9 旧防衛庁の職員が個人情報を開示したとするもの(12万円)
10 入国管理センターの職員が被収容者に暴行したとするもの(58万250円)
11 国税局職員が他人の財物を破損したとするもの(19万1666円)
③ Q ②のうち、国家公務員個人の故意又は重大な過失が認められたものがあればその件数を、故意あるいは重大な過失の別に明示されたい。
A ②についてで述べた29件のうち、判決文において、国家公務員の故意が認められたものは(1)2 及び(2)9 の2件であり、重大な過失が認められたものは(1)5の1件である。
④ Q ③について、求償権を行使したことがあったか。求償権行使の有無それぞれにつき、その理由を明らかにされたい。
A ③についてで述べた3件のうち、(1)2 及び(2)9 の2件については、違法があるとされた公務員の行為が故意によるものであることが明らかであるとして求償権を行使した。他方、(1)5 については、現時点において求償権を行使していない。
⑤ Q ③について、行政処分または刑事処分ないしその両方の処分がなされたか。処分の有無それぞれにつき、その理由を明らかにされたい。また、その内容及び確定した結果はどのようなものだったか明らかにされたい。
A ③についてで述べた3件のうち、(1)2 及び(2)9 の2件については、職務上の義務違反等を理由として減給処分を行い、(1)5 については、訓告及び厳重注意の措置を執った。また、(1)2 については起訴猶予により不起訴となったが、(1)5 及び(2)9 の2件については公訴提起されたとは承知していない。
⑥ Q 国家賠償法第一条第二項に基づく求償権の行使について、政府の基本的な考え方を明らかにされたい。
A 国が国家賠償法第一条第二項の規定に基づき求償権を取得した場合には、国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)第十条から第十二条まで、会計法(昭和二十二年法律第三十五号)第六条等の規定するところに従って、遅滞なく、求償権につき弁済の義務を負う公務員に対してこれを行使すべきものである。
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この資料から、まず最初に驚かされることは、国が、国家賠償訴訟の統計を作成していないということです。
公務員の職務上の行為が適正に行われているかどうかという動向を知ったり、また、国の組織が正常に機能しているかを知る手掛かりともなるべき国家賠償訴訟の統計資料を作成していないということは、国として恥ずべきことであり、近代国家としては極めて不名誉なことです。 次に驚かされるのは、原告の勝訴率の著しい低さです。
上記の資料を基に、事件数から計算してみると、次のようになります。
【国の敗訴(一部敗訴を含む)率】
平成19年
18件/750件=2,4% (原告の完全敗訴率 97,6%)
平成20年1月~6月
11件/600件≒1,8% (原告の完全敗訴率 98,2%)
前述の1995年(平成7年)から1999年(平成11年)までの5年間の古い資料には、次のように記載されています。
国家賠償訴訟の審理期間及び結果に関する統計資料は作成しておらず,最高裁判所が作成している司法統計年報においても同様であることから,資料提供することができない。ただし,最近に判決のあった国家賠償訴訟の結果について調査したところ,国側が全部勝訴した事件の割合は,おおむね90パーセント程度であった。
10年以上前のデータでは、一割の原告の訴えが認められていたようですのが、新しいデータでは、98%前後の原告が、完全敗訴となっています。
これらの数字から言えることは、国家賠償訴訟は、やるだけ無駄と言わざるを得ない状況にあるということです。
私の裁判において、裁判官が違法行為をしてまで(検察は根拠も無く不起訴処分にしました。)国を勝訴させたことに鑑みても、国が勝訴するように、判決が意図的にコントロールされているのではないかという疑念が強まります。 国家賠償訴訟の統計資料が作成されていない理由のひとつは、このような形骸化している国家賠償訴訟の実態を国民に悟られないようにするためではないでしょうか。
国形骸化している国家賠償訴訟が、なぜ制度化されているのかといえば、民主国家としての体裁を国内外に示すためのアイテムとして国家賠償訴訟が存在しているに過ぎないと考えるべきでしょう。
ですから、それが適正に機能しているかどうかは、まったく関係ないことなのです。 統計資料が作成されていないもうひとつの理由については、次回にしましょう。



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