メディアによる世論誘導の手法
その記事の中に司法官僚の天下り先が列挙されており「歴代検事総長が電通に天下りしてる」というワンフレーズに、少し前に読んだ本 「官僚とメディア (魚住 昭著 角川書店)」 のことが即座に思い浮かびました。
裁判員制度導入に向けた最高裁と新聞社の共催によるタウンミーティングに、サクラが動員されたことは、みなさんも記憶に新しいと思います。
それに関連したことが、この本の最終章「第8章 最高裁が手を染めた『二七億円の癒着』」に書かれています。
一言で言えば、国民の多数が消極的であった裁判員制度が、最高裁と日本最大の広告代理店である電通とが結託した大規模な世論誘導プロジェクトによって成し遂げられたのではないかということです。(この本の初版が、裁判員制度導入前の2007年4月なので、今となっては過去形になってしまいます。)
大がかりな世論誘導プロジェクトには、当然のことながら巨額の予算が動くわけで、最高裁と電通が癒着して、総額約27億円(05年度と06年度分の合計)の広報予算が、不透明な経過で支出されているのではないかという事実が明らかになったということなのです。
30ページほどの内容を短くまとめるので要点だけになりますが、項目に分けて簡単にまとめてみました。
① 裁判員制度が生まれる背景
裁判員制度導入を目玉とした司法制度改革は、もともと経済界と自民党が主導したものであったが、刑事裁判の迅速化と効率化だけが強調された。
裁判員制度の実態も、「開かれた司法」「市民参加の裁判」というキャッチフレーズからはかけ離れ、判決の過半数に裁判官と裁判員の最低1名が入っていないといけないとか、控訴審には裁判員制度が導入されないなどの理由で、米国の陪審員制度(12人の陪審員だけで結論を出し、一審で無罪になった事件は控訴できない。)と違って、市民の自主性は発揮されず、裁判官たちの主導権が失われることもない。
また、国民の多数ばかりか、司法関係者も内心では受け入れがたいと思っている。
② それぞれが狙う利権
裁判員制度導入に向けた巨額な広報予算を獲得したい電通、共同通信、全国地方新聞と、裁判員として参加することが国民の義務であるという裁判員制度に対する前向きな世論の醸成を図りたいという最高裁の思わくが「四位一体」となり巨大プロジェクトが行われたというものだ。
ここで、電通、共同通信、全国地方新聞との関係を簡単に説明すると次のようになる。
日本最大の広告代理店・電通の大株主が共同通信社であり、共同通信社は47地方新聞(47紙の発行部数を合わせると読売の2倍近い1800万部近くになり、影響力を無視できない。)に記事を配信しており、また、共同通信社は、取材を通じて政官財界とのつながりがある。
新聞は収入の半分以上を広告に頼っており、電通の強い影響下にある。
③ 巨大プロジェクト推進のための手段
電通、共同通信、全国地方新聞、最高裁の四位一体が世論を誘導するための手段としたのが、広告と“偽装記事”を抱き合わせた「パックニュース方式」というものである。
簡単に言えば、有料の最高裁の広告と同じ紙面上に、電通の指示で全紙同じ規格で掲載される無料の裁判員制度についての社会面記事や特集記事をオマケでつけるというものだ。
本来なら、【PR】とか【裁判所の広告】といった断わりがなければならないが、あえて明記しないことで、官庁や裁判所と一線を画して、新聞社の編集に基づく独立性・中立性のある記事であるということを思い込ませ、世論形成をしようというものだ。
(同じようなことが、原子力発電所の安全性や必要性を訴えるイベント開催でも行なわれている。)
パックニュース方式を使って政府系広報の予算をとろうとしたのが電通と地方紙連合(巨額の政府広報予算を獲得するために47地方紙が結集して設立した任意団体。)で、電通が、豊富な人脈を築いている共同通信社を通じて官庁に食い込むだけではなく、共同通信社が主催する研究会や勉強会を通じて、地方紙の論説委員や編集幹部クラスをも取り込むことで、報道機関である地方紙や共同通信を政府の広報期間として利用し、巨大な世論誘導システムの構築を目論んでいるというものだ。

大まかな内容は以上のようなものですが、このほかにも、最高裁が電通と癒着して、判例違反の「さかのぼり契約」を結び、税金を濫費していたなど、契約に関する不審な点が多くあり、詳しいことは本書をご覧ください。


「裁判員制度を導入する前に もっとやるべきことがあるのでは・・・・」
「なぜ凶悪事件に裁判員制度なの? ~私の推論ですが~」
「最高裁判所自らが判例違反をしているんじゃないの!」



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