超大作の上告受理申立理由書 ~ 原告適格と信義則 ~
訴状に始まった裁判所へ提出する文書も、私の場合、上告受理申立理由書が最終となりました。
一審の初めのころに比べて、この種の文書の書き方にもだいぶ慣れました。
上告審は法律審ですので、私は、次の二つのテーマについて判例違反を主張することにしました。
ひとつ目は
私が、夫の損害賠償請求をすることに関して、原告適格を有するかどうかということについての判例違反です。
ふたつ目は
一審、二審と主張し続けてきたにもかかわらず、私がそのような主張をしていることすら判決書に記載されなかった信義則について( 『事件の経緯と裁判の最大の疑問点 ~記載されなかった信義則の主張~』 )、私の事件のケースと、事実関係が極めて類似している判例を示して、判例違反を再々主張することです。
しかし、これらについての判例違反を主張する前に、その前提として、二審判決の誤り、不備、矛盾等について、明確に主張しておく必要がありました。
侮られた私の判決
判決を言い渡した裁判官らが、私の刑事告訴により立件され、現在、取調べ中であることからも、二審判決が、どのようなものであったか、ある程度、察していただけるかと思いますが・・・・・
事件についての事実関係や、一審・二審における私の主張を全く知らない第三者が、確定された仙台高裁判決を読んだなら、それらの人々は、ほぼ全員、私のことを、
「こんなことを理由に国家賠償訴訟を起こすなんて、ほんとバカじゃないの! 損害賠償請求が認められないのは、当然よ。」
と思うでしょうね。
第三者が、このように考える根拠には、告訴状でも一部述べておりますが、二審判決には下記のような問題点があるからです。
① 一審・二審に共通して言えることですが、証拠に基づく事実関係の検証がほとんどされて
おらず、明確な根拠を示すことなく、安易に、私の電話相談と損害との因果関係を
否定している。
② 控訴棄却の判決の趣旨に合致するように、行政が関与した部分の記述を完全に削除して、
私の主張の趣旨をねじ曲げたものを、私の主張であるとして判決理由に記載 している。
③ 裁判所が、行政よりの偏った判断をするあまり、判決理由に論理の矛盾が生じている。
④ 一審・二審と信義則についての主張をしているにもかかわらず、そのような主張をしている
ことすら判決書に記載されなかった。
これらのことは、本当に許しがたいことです。
二審判決に対する怒りと悔しさが、超大作の 『上告受理申立理由書』 を、私に作成させる原動力となりました。
上告受理申立理由書は、左下の[READ MORE]をクリックしてください。
プライバシーにかかわる部分を除いて、ほぼ全文を掲載しました。
長いですが、赤字の部分は、是非、読んでいただきたいと思います。
私の事件のケースと、最高裁判例のケースでは、いったいどこが異なるのでしょうか?
特に、信義側の判例については、私のケースと事実関係が極めて類似しています。

上告受理申立事件
申立人
相手方 国
上告受理申立理由書
平成19年8月24日
最高裁判所 御中
上告受理申立人
第1 はじめに
原判決は、①申立人の夫***(以下「**」という。)に係る訴えについての原告適格について、最高裁判所昭和42年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決(民集24巻12号1854頁)を引用して、この判断基準に従って判断しているが、任意的訴訟担当としての原告適格の要件を著しく狭く解釈し、申立人の原告適格を否定している原判決は、判例に違反していること、②行政の対応と申立人の損害の因果関係につて事実関係の認識が不十分であり、信義則の適用を認めていない原判決は、最高裁判所第3小法廷判決平成13年3月27日平成7年(オ)1659通話料金請求事件(第55巻2号434頁)に違反していることなど、判例違反があるから上告受理の申し立てを行う次第である。
尚、原判決においては、控訴理由書における申立人の主張が誤って解釈されている部分、及び、前後の文脈と論旨が合っていない部分があるので訂正を求める。
第2 原判決の訂正を求める部分
1 3ページ15行目ないし20行目において
「(2)原判決6頁14行目の次に行を改めて以下のとおり加える。
『また、本件による夫と控訴人の損害は、同じ公務員の同じ行為によって生じたものであるから、控訴人が自分自身の損害について自ら訴訟を追行している以上、夫の損害についてのみ弁護士代理の原則を適用するのは相当ではなく、控訴人は、夫に関する訴えについても、任意的訴訟担当としての原告適格を有すると示されているが、上記の「本件による夫と控訴人の損害は、同じ公務員同じ行為によって生じたものであるから、控訴人が自分自身の損害について自ら訴訟を追行している以上、夫の損害についてのみ弁護士代理の原則を適用するのは相当ではなく」の部分については、控訴理由書8ページ21行目ないし27行目の引用文献の「民事訴訟法の当事者については『人の行為は、これを他人に委ねて、その他人の行為を通じて結果としての責任を負うという代理の制度も、これを当然のものとして認めている。ただ、訴訟行為の性質上委任代理を認めるものの、弁護士による代理を基本とする制度を採用し、本人訴訟を認める反面、代理による場合は若干の例外を除き弁護士によるべきであるとした。』参考文献 原審甲第4号証-Aと定義されている。」の文章中の「代理による場合は若干の例外」に相当する事情として述べたものであり、原判決のように任意的訴訟担当としての原告適格の直接的な根拠として述べたものではない。
よって、上記部分の削除または訂正を求める。
同様のの理由により、原判決5ページ2行目ないし6行目の判断も不適切である。
2 6ページ4行目及び5行目「夫が受けたとされる不利益とは無関係に控訴人の何らかの権利や法的利益が侵害されたというものではない。」については、「夫が受けたとされる不利益と関係があって控訴人の何らかの権利や法的利益が侵害された。」と受け取れ、その前後の文脈と論旨が合っていないので訂正を求める。
第3 原告適格について
原判決において、「控訴人は、①夫の損害が控訴人の電話相談に起因している、②控訴人も被害を負っている、③控訴人自身も名誉回復など固有の利益を有していることから、夫の権利関係に係る訴訟について任意的訴訟担当としての原告適格が認められる旨の主張をするが、これはいずれも夫が控訴人に訴訟追行権を授与したことを基礎づけるものということはできない。」と判示されているが、上記の①ないし③は、そもそも、一審原告準備書面(平成17年7月25日付)で主張したことを、一審判決で上記のように極めて簡略化されて要約されたため、申立人の本来の任意的訴訟担当の許容限度の主張の趣旨と基本的にずれが生じており、以下で、改めて任意的訴訟担当としての原告適格の要件(下記の(1)ないし(5))と、本件におけるその要件に合致する事情を示し、さらに、原判決における最高裁判所昭和42年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決(民集24巻12号1854頁)の任意的訴訟担当の要件の解釈が著しく狭いことを、参考文献(添付資料、甲第4号証-B)に基づいて検証し、判例違反を明らかにする。
1 任意的訴訟担当としての原告適格の要件と本件の事情
(1)訴訟追行権の授与があること
原判決においては、「夫が控訴人に対し夫に係る訴えについて訴訟追行権を授与したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、弁論の全趣旨によれば、夫は、平成13年8月ころ、控訴人に対し、『------------ (省略)----------- 。』と言っていたことが認められるところ、これによれば、夫は、本件に関し訴えを提起することを望んでいなかったことがうかがわれる。」と判示されているが、同様の指摘は一審答弁書でもされており、原告準備書面(第12回)で反論しているが、改めて以下に詳述する。
前記の夫の言葉は、提訴する4年も前に申立人が言われたことであるが、この言葉の解釈としては、申立人の訴訟を否定しているものではなく、------------ (省略)----------- と解するほうが妥当であり、訴訟追行権の授与を否定したものではない。
尚、夫が本件に関することにかかわりたくないのは、富岡労働基準監督署(以下「富岡署」という。)の職員A(以下「A」という。)の不適切な対応により、***株式会社(現「***株式会社」、以下「本件会社」という。) ------------ (省略)----------- 、その点は深く考慮されるべきである。
また、; ---------(省略)-------- 裁判をさせて欲しい旨伝えたところ、夫からは反対の意思表示がなかったので、申立人は、夫が、申立人の要望を承諾したものと受け止め提訴に至った。その後の裁判の経緯については、随時(---省略---)伝えてきた。
尚、添付資料3ページ24行目及び25行目に「授権は明示的であることが望ましいが、担当者と非担当者との間の実体的法律関係の中に黙示的な授権を認めることも許される。」とされており、本件は、訴訟追行権の授与があったものとみなされるべきである。
(2)弁護士代理の原則、訴訟信託禁止の趣旨に反するおそれがないこと
後述の(4)の理由より、本件に関しては問題がない。
(3)訴訟担当を認める合理的必要性があること
原判決においては、任意的訴訟担当を認める要件として、最高裁判所昭和42年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決(民集24巻12号1854頁)を引用し、前記(2)の要件のほか、「任意的訴訟担当を認める合理的必要がある場合」を要件としている。そして、「ここでいう合理的必要がある場合とは、直接法律の定めるところにより許容されている場合(①とする。)のほか権利主体と訴訟担当者との法律関係に照らして、権利主体が一般的に訴訟担当者に実体上も財産の管理処分能を授与しているとみられるような場合(②とする。)を指すものと解すべきである。」とし、本件を後者②の場合に照らし合わせ「しかるところ、控訴人と夫は夫婦であるというにすぎず、一般的に実体上の財産の管理処分能を授与するような法律関係にあるとはいえないから、合理的必要がある場合にあたらないというべきである。」と判示している。
しかしながら、参考文献(添付資料2ページ6行目ないし4ページ末尾)によれば、任意的訴訟担当の要件としては、許容する明文の規定のある場合として(a)選定当事者(民事訴訟法30条)、(b)建物区分所有等に関する法律第25条に定める管理者(同法26条4項)、(c)債権の管理回収業務の委託を受けた債権回収会社(債権回収業法11条1項)、(d)海難救助に関する訴訟における船長(商法811条2項)、(e)手形の取立て委任裏書による取立人 などが挙げられ、許容する明文の規定のない場合としては、原判決と同様、前記(2)の要件のほか「訴訟担当を認める合理的必要があること」を要件とし、「必要性の有無の判定に当たっては、任意的訴訟担当を許容する法規の要件が考慮されるべきである(2)」とされており、本件に最も当てはまる許容規定としては、前記の(a)の選定当事者(同文献8.2(2ページ9行目))の要件が挙げられ、その要件である「共同の利益」は、主要な争点が共通していれば足りる(最高裁判所昭和33年4月17日・民集12巻6号873頁)とされている。
以上の要件に照らし合わせれば、(5)及び第4 1で後述しているとおり、本件における申立人の損害及び夫の損害は、同一公務員の同一行為により生じたものであることから、当然主要な争点も共通しており、任意的訴訟担当を認める合理的必要がある場合に相当するものと考えられる。
尚、原判決の前記①の「直接法律の定めるところにより許容されている場合」というのは、同文献に基づけば、許容する明文の規定のある場合に相当し、②の「権利主体と訴訟担当者との法律関係に照らして、権利主体が一般的に訴訟担当者に実体上も財産の管理処分能を授与しているとみられるような場合」というのは、許容する明文の規定のない場合に相当し、任意的訴訟担当を許容する法規の要件(前記の(a)ないし(e))の中の一形態(前記の(b)または(d))に含まれるものと考えられる。
また、参考文献 甲第4号証-Bによれば、任意的訴訟担当を認める許容限度として、前記(1)(2)の要件のほかに下記の(4)、(5)を挙げている。
(4)第3者が他人の権利関係に関する訴訟につき自己固有の利益を有する場合
この場合には、第三者に訴訟追行件を授権しても、弁護士代理の原則、及び、訴訟信託の禁止に反する弊害を生じない。
本件においては、-----------(省略)--------、また、労働基準監督署に電話相談したことに関しては強く自責の念に駆られており、その際に伝えた夫に関する情報がAによって恣意的に利用されたことに関しては憤りを感じており、夫の被った損害を相手方に補償させ、------(省略)------することは、申立人の名誉の回復と申立人の精神的な傷を癒すためにも必要なことであり、申立人固有の利益を有している。
(5)第三者が訴訟物たる権利関係につき訴訟を追行する権限を含む包括的な管理権を持ち、権利主体と同程度以上にその権利関係につき知識を有する程度まで関与している場合
後記の第4 1で詳述しているとおり、本件の発端となった申立人の電話相談の際に、申立人が提供した夫に関する情報が、労せずしてより多くの是正勧告を行うために、富岡署の職員Aにより恣意的に利用されたことが、-----------(省略)--------をもたらす結果となり、仮に、申立人よる情報提供がなかった場合、あるいはAが適切な対応をとった場合には、-----------(省略)--------が起こらなかったことを考慮すると、申立人の電話相談と夫の損害・申立人の損害については密接な因果関係が存在しており、申立人が、訴訟物の権利関係について包括的な管理権をもっているといえる。また、夫と相手方とのかかわりは、富岡署が直接かかわった部分に限定されるが、申立人は、それ以前の電話相談の段階、及び、富岡署の対応以降の福島労働局との不服申し立ての過程等で知り得た事実等から、本件に関しては、夫以上に知識を有しており、申立人は(5)の要件を満たしている。
よって、申立人は、任意的訴訟担当の要件に適合しており、任意的訴訟担当の要件の範囲を狭く限定的に捉え申立人の原告適格を否定している原判決は、前記の判例(最高裁判所昭和45年11月11日大法廷判決)に違反している。
第4 信義則違反と合理性
申立人の慰謝料請求について、原判決は、要するに、富岡署の職員の不適切な対応により直接損害を被ったのは夫であり、また、控訴人が福島労働局に申し立てた不服も、夫の受けた不利益を前提とするもので、その際に控訴人が精神的苦痛を感じたとしても法的保護の対象にはならない。さらに、------(省略)------- により、控訴人が苦痛を感じたとしても、-----------(省略)--------の問題であり、富岡署の職員の対応と相当因果関係があるとは認められないとしている。
しかしながら、原判決は、本件に関する行政の対応と申立人の損害の因果関係について、事実関係の認識が不十分であり、信義則の適用を認めていない原判決は、最高裁判所第3小法廷判決平成13年3月27日平成7年(オ)1659通話料金請求事件(第55巻2号434頁)(以下「通話料金請求事件」という。))に違反している。
この判例違反を明らかにする前提として、本件の発端となった申立人の電話相談と、夫の損害・申立人の損害の因果関係について、富岡署職員Aの本件会社に対する対応に限定した観点から、体系的に事実関係を再確認しておく必要がある。
さらに、本件と通話料金請求事件との共通点を示し、信義則を認めていない原判決は判例違反であること、及び、原判決は、行政の矛盾した行為を肯定するものであり、公正さに欠ける極めて不合理な判断であることを示す。
1 申立人の電話相談と夫の損害・申立人の損害の因果関係
申立人の電話相談に基づいて行われたAの本件会社に対する対応については、次の①ないし④の問題点がある。
申立人の電話相談の目的及び当初の確認に沿って、本件会社に対し長時間労働解消のための指導を早急に夜間実施すべきところ、①本件以前に行った本件会社に対する是正勧告(乙A第2号証)との間隔を空けるために、本件に関する対応を約3か月遅らせた(一審被告第1準備書面)、②昼間の時間帯に調査に入り、長時間労働を把握するための入退管理システム(タイムカード)の調査を行わずに、比較的容易に違反が発見できる時間外手当の調査に安易に切り替えてしまった、③多数の該当者がいたにもかかわらず、未払い賃金に関する是正勧告を夫に限定して行ったため(乙A第5号証)、相談者が特定されてしまった、④一度で済むべき是正勧告を、期間を分割して二度にわたり行った(乙A第5号証、乙A第8号証)など、申立人の電話相談の際に伝えた夫に関する情報が、労せずしてより多くの是正勧告を行うために、Aにより恣意的に利用されたことが、問題の発端である。
本件会社が違法行為をしていたことはさておき、富岡署からこれらの行為を受けた本件会社は、未払い賃金の是正による収益の減少の懸念、多数回に及ぶ是正勧告により本件会社に対する評価が低下することの懸念、社長の責任問題等、申立人の電話相談に沿った対応が行われた場合と比較し、相対的により大きな痛手を受ける結果となった。それが、-----------(省略)---------- となり、-----------(省略)-------- 夫は、退職を余儀なくされた。-----------(省略)-------- を実質的に任され、睡眠時間を削ってまで献身的に従事してきた夫としては、自ら労働基準監督署に訴えたわけでもないのに、退職という最悪の結末に至り、-----------(省略)-------- に至った。
すなわち、申立人の電話相談を発端として、富岡署による情報の恣意的利用、本件会社への影響、夫への -----------(省略)--------と、損害の連鎖のサークルが存在していることを認識しておく必要がある。仮に、申立人が夫に関する詳細な情報提供をしなかった場合、あるいは、Aの対応が適切であった場合には、右の損害の連鎖が起こることはなく、申立人の電話相談と夫の損害・申立人の損害には、密接な因果関係があることは明白である。
2 最高裁判所第3小法廷判決平成13年3月27日平成7年(オ)1659通話料金請求事件(第55巻2号434頁)との共通点
本件は、通話料金請求事件と事実関係が極めて類似しており、共通点を以下に示す。
(1)利用者
(通話料金請求事件) Q2情報サービスは、一般家庭の加入電話から契約者のみならず家族も含めて利用可能なサービスであり、利用者は契約者の家族であったこと。
(本件) 労働基準監督署は、一般国民が利用できる行政機関であり、相談の受け付けも本人に限定されておらず、妻である申立人が利用したものであること。
(2)利用者・契約者への説明
(通話料金請求事件) Q2情報サービスが、料金の高額化の危険性が十分予想されるにもかかわらず、それを加入電話契約者に個別に告知したり、契約者の意思を具体的に確認することもなく、また、契約者・利用者が利用事実を認識することができない状態で、既製の電話回線から利用可能であった。
(本件) 本人(夫)ではない申立人からの匿名の相談であったにもかかわらず、労働基準監督署は、そのリスク(労働基準監督署の対応が当初の確認と異なってしまう可能性があること、ましてや提供した情報が恣意的に利用されてしまうこと、さらには、労働基準監督署の対応について問い合わせても本人ではないことを理由に説明を受けられないこと等。)を説明することもなく、夫に関する情報を詳細に聞き出し、本人が特定できるまでの情報を得ていながら、本人(夫)の意思も確認せずに、申立人及び夫が労働基準監督署の対応方法・経緯について認識できない状況下で、申立人の当初の確認とは全く異なる対応をとった。
(3)結果
(通話料金請求事件) Q2情報サービスの多数回・長時間にわたる利用により、通話料が通常の負担の範囲を超えて著しく高額化し、契約者がその負担を余儀なくされ、契約当事者の予想と著しく異なる結果となった。
(本件) 行政を信頼して利用(相談)したにもかかわらず、申立人の提供した情報が恣意的に利用され、夫の退職という最悪の結末に至ることなど、当初の電話相談の時点では全く予想できなかった事態に至り、申立人は、富岡署の対応には憤りを感じるとともに、労働基準監督署に電話相談したことに関しては強く自責の念に駆られている。
通話料金請求事件の判決理由では、「公益事業者である上告人としては一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては、同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったというべきである。 (中略) 被上告人が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで、本件約款118条1項の規定が存在することの一事をもって被上告人にその全部を負担させるべきものとすることは、信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いというべきである。」とし、信義則の適用を認めている。
本件は、通話料金請求事件と極めて共通性のある事件であり、通話料金請求事件と同様、信義則の適用が認められるべきである。また、行政がかかわった最高裁判所判決昭和56年1月27日(民集35巻1号35頁)においても信義衡平の原則に照らし法的保護が与えられており、本件において、信義則の適用が認められていない原判決は、判例違反である。
また、夫の損害請求に係る申立人の原告適格についての補足ではあるが、夫の長時間労働を解消するための申立人の電話相談が、行政の不適切な対応により、逆に夫に損害をもたらす結果となったことについては、信義則との関係も複合的に考慮された上で、申立人の原告適格について判断されるべきであると考えている。
3 原判決の公正さと合理性
申立人による労働基準監督署への電話相談も、福島労働局等にした不服の申し立ても、いずれの場合も夫が受けている不利益に関することである。しかしながら、行政の対応に着目した場合に、行政が行政外部の本件会社に関する申立人の相談に関しては、夫本人ではないにもかかわらず積極的にその情報を聞き出し、その対応に至ったわけであるが、一方、行政内部の富岡署に関する不服申し立てに対しては、本人ではないということを理由に再三の要求にもかかわらず詳しい事情聴取や具体的な解決策をとることもなく放置同然の極めて不適切な対応をとったことである。それにもかかわらず、原判決が、申立人が福島労働局に不服申し立てをした際に精神的苦痛を受けたとしても、夫が受けた不利益を前提とするものなので、当然法的保護の対象にはならないと判示していることは、これら行政の矛盾した行為を是認していることになり、さらには、不祥事の隠蔽ともとれる行政の姿勢を肯定しているものである。
また、別の見方をすれば、原判決は、電話相談に関するその後の対応・経緯に関して、相談者(申立人)が行政に説明等を求めても、本人(夫)ではないので応じなくてもよいということを肯定しているものであり、それに倣えば、労働基準監督署が、本人ではない申立人からの相談を受け付け、夫に関する詳細な情報を聞き出し、さらには本人の意思も確認せずにその対応に及んだこと自体、当否に問題が生じることになり、労働基準監督署が、不当な手段で得た情報に基づいて不当に行動したことにより夫及び申立人に不利益が生じたのであるならば、当然相手方が責任を負うべきであり、これらの関係を考慮すると、原判決は極めて矛盾した不合理な判断であるといえる。
-----------(省略)-------- で解決を図るべき問題であり、富岡署の職員の対応等と相当因果関係のある損害とは認められない。」(6ページ22行目ないし26行目)と判示しているが、そうであるならば、夫が本件会社からの退職を余儀なくされたことに関しても、直接的なかかわりのあった本件会社と夫の間の問題で、社長の意思・本件会社の判断によるものということになりかねず、それらの間で解決を図るべき問題になってしまう。
つまり、上記のようなことがまかり通るのであるならば、 行政が、本件の例ように、私企業(私人)と私人の間の相互関係を監督・指導するという行政の性質上、行政の対応に違法行為・過失等があったとしても、結局は、私企業(私人)と私人の間の問題となり、行政が責任を問われる可能性はほとんどなくなる。言い換えれば、行政の行為と、私人あるいは私企業の受ける利益・不利益とは全く無関係なこととなり、そうであるならば、行政活動が法や規則に基づいて適正に行われるかどうかさえ保障されない事態になりかねず、法治国家としての行政の機能を果たせないことになる。
逆に言えば、そのようなメカニズムを行政が熟知しているからこそ、行政の行為に関して、過失や違法性を指摘され、行政自身がそれらを認識していながら、決して非を認めようとはせず、不当な手段を用いてまで行政の正当性を主張し続けるという、まさに本件のようなことが起こり得るのである。本件では、相手方が、多くの矛盾点を含み二転三転する虚偽の主張・証言を繰り返し、さらには、捏造した書証(乙A第6号証)の提出までしているにもかかわらず、それでもなおかつ、一審及び二審判決において相手方の正当性が全面的に認められているが、このこと自体常識的には全く理解し難いことであり、これらの判断は、行政の恣意的行為に加担するものであり、また、行政の機能不全を助長するものであるといわざるを得ない。
すなわち、行政の矛盾した行為を肯定している原判決は、事実関係の認識が不十分で、行政の機能にかかわる本質的な問題点を見落としており、公正さに欠ける極めて不合理な判断であり、法律による行政の原理にも反するものであるといえる。
第5 結論
以上のとおり、本件は、任意的訴訟担当としての原告適格の許容範囲、及び、信義則の適用に関する重要事項を含む事件であり、また、原告適格に関しては、信義則の趣旨が反映されるべきで、これらが複合的に考察される必要がある事件である。
さらに、法律による行政の原理に基づく行政の適正な活動及び機能に係わる重要事項を含む事件であることから、さらなる裁判を求め上告受理申立に及んだ次第である。
添付書類
1 上告受理申立理由書副本 7通
2 資料(参考文献) 8通
平成19年(ネ受)第**号 上告受理申立事件
申立人
相手方 国
上告受理申立理由書(2)
平成19年9月14日
最高裁判所 御中
上告受理申立人
原判決においては、本件の事実関係が誤って記載されている部分(下記の1(1))、及び、控訴理由書における申立人の主張の趣旨が誤って解釈されている部分(下記の1(2))があるので訂正を求める。
また、平成19年8月24日付の上告受理申立理由書に後記の部分を補足する(下記の2)。
1 原判決の訂正を求める部分
(1)原判決5ページ8行目および9行目の「控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が夫の長時間残業について富岡署に相談したところ、その職員が不適切な対応をしたことなどにより、」については、申立人が相談したのは「いわき署」であるので、原判決2ページの 第2 事案の概要 1 の記述に従い、「控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が夫の長時間残業についていわき署に相談したところ、これを引き継いだ富岡署の職員が不適切な対応をしたことなどにより、」に訂正されたい。
(2)原判決6ページ16行目ないし21行目において
「 控訴人は、 -----------(省略)----------が控訴人の損害の本質である旨の主張をする。」 とされており『 -----------(省略)----------が、控訴人の損害の本質である。』と捉えられる表現になっているが、申立人が控訴理由書(平成19年4月10日付)4ページ10行目ないし18行目において 「 以上のような、 -----------(省略)---------- が、控訴人の損害の本質である。」 と述べているとおり、『ここに記載されているすべてのことが、申立人の損害の本質』であり、原判決の表現のように『 -----------(省略)---------- のみが、申立人の損害の本質』ではない。
つまり、申立人が、 -----------(省略)---------- 、富岡署の本件会社に対する対応が申立人の当初の確認に沿って適正に行われたか否か、正確な事実関係を把握することは極めて重要であり、そのために福島労働局等に調査・説明を求めていたわけであるが、『福島労働局等の対応が不適切であったために、右の控訴理由書の中で述べているような-----------(省略)----------一向に改善されることなく継続し、申立人の著しい精神的苦痛も進展の兆しのない状況で長期間継続したこと( -----------(省略)----------。)が、申立人の損害の本質である。』というのが主張の趣旨である。
よって、右の原判決の表現は、原判決の趣旨に合致させるために、申立人の主張の中の都合のよい部分のみを抜粋したものであるとも受け取れ、極めて是認できない表現であり、原判決の前記の部分(原判決6ページ16行目ないし21行目)の削除あるいは訂正を求める。
したがって、原判決の前記の部分(原判決6ページ16行目ないし21行目)に基づく、原判決6ページ22行目ないし26行目の判断についても、申立人の主張とのずれが生じており不適切ではあるが、この部分の判断が不当であることは、上告受理申立理由書(平成19年8月24日付)の第4 3(原判決10ページ14行目ないし11ページ5行目)で述べているとおりである。
2 平成19年8月24日付の上告受理申立理由書の補足
9ページ14行目の次に、行を改めて以下のとおり加える。
「 要するに、通話料請求事件では、契約者の家族が、料金の高額化の危険性を知らずにQ2情報サービスを利用したため、それにより契約者に生じた通常の範囲を著しく超えた通話料についてまで契約者に負担させることは、信義・衡平の観念に照らし直ちに是認しがたいとされており、すなわち、家族の利用と、契約者の損害との因果関係が認められている。
本件においては、申立人が行政を信頼して夫に関する情報提供をしたにもかかわらず、その情報がAにより恣意的に利用されてしまったことが一連の損害の根本的な原因になっており、その結果、夫が退職を余儀なくされるという重大な事態に至り、これら本件の事実関係を通話料金請求事件に引き比べてみた場合、本件においても同様に、申立人の相談と夫の損害の因果関係が認められるべきである。
仮に、夫自らが労働基準監督署に相談し、そのことが原因で夫に損害が生じてしまった場合、あるいは、申立人の相談に基づくAの対応が当初の確認に沿い適正であったにもかかわらず、やむを得ない事情等により夫に不利益が生じてしまったのであれば、原判決のとおり、直接の被害者は夫というべきであって、それにより夫が被った損害については、夫が自ら訴訟を提起して回復を図るべきものであり、控訴人に不快な感情が生じることは経験則上あり得ることで、当然に法的保護の対象とはならないこと(原判決5ページ15行目ないし24行目の要約)、さらには、被害者の親近者は、被害者の生命等の重大な法益に対する侵害行為があった場合に、例外的に損害賠償請求をすることができるとされているが(民法711条参照)、本件において夫が被ったとされる損害は、そのような重大な法益の侵害とまで見ることはできず、控訴人のいわき署に対する相談が発端となって一連の事態に立ち至ったものであるとしても、そのことは、上記の判断を左右するものとはいえないこと(6ページ9行目ないし15行目の要約)などの判断は、妥当なものであると考えられる。
しかしながら、申立人が提供した夫に関する情報が、Aにより、労せずしてより多くの是正勧告を行うために恣意的に利用され、富岡署の本件会社に対する対応が申立人の当初の確認と全く異なってしまったということは、まさに信頼を裏切る行為であり、それにより、申立人自身も、-----------(省略)---------を受けるなど長期間にわたる著しい精神的苦痛を伴う不利益を被っており、申立人も富岡者の不適切な対応による直接的な被害者であると判断されるべきである。
よって、原判決が、夫のみを富岡署による直接的な被害者であるとしていることは極めて不当な判断である。」
添付書類
1 上告受理申立理由書(2)副本 7通
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